大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和31年(ネ)310号 判決

控訴人 住田一義

右代理人辯護士 亀井正男

被控訴人 山県冷凍工業株式会社

右代表者 山県正直

被控訴人 山県正直

主文

原判決を左の通り変更する。

被控訴人等は控訴人に対し各自金十二万九千六百十五円七十二銭及び連帯してこれに対する昭和三十年五月十日以降完済に至るまで年三割六分の割合による金員を支払わねばならない。

被控訴人等に対する控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。控訴人に対し被控訴人等は合同して金十五万円及び連帯してこれに対する昭和三十年五月九日から完済に至るまで日歩金二十五銭の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の連帯負担とする。との旨の判決を求め、被控訴人等は各控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は被控訴人等において被控訴人等は控訴人に本件約束手形の割引をして貰うにあたり割引料(公正証書作成費用金七百五十円を含む)として金二万五千百円を負担し、右約束手形金よりこれを控除した残額金十二万四千九百円の受領をなしたものであると述べ、控訴人においてこれを認めた外は原判決における摘示と同一であるからここにこれを引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一乃至第四号証を提出して、乙第一号証の成立を認め、被控訴人等は乙第一号証を提出して甲号各証の成立を認めた。

理由

原審共同被告奥村鋼材店事奥村静夫が被控訴人山県冷凍工業株式会社に宛て金額金十五万円、満期昭和三十年五月八日、支払地、振出地共に名古屋市、支払場所株式会社協和銀行八熊支店なる約束手形一通を振出し、右被控訴会社が右約束手形を被控訴人山県正直に、同被控訴人がこれを控訴人に夫れ夫れ拒絶証書作成の義務を免除して裏書譲渡し、もつて被控訴人等において控訴人より右約束手形の割引を受け控訴人は被控訴人に対しこれが割引料(公正証書作成費用金七百五十円を含む)として金二万五千百円を控除した残額金十二万四千九百円を交付し、控訴人が訴外株式会社東海銀行に右約束手形の取立委任裏書をなし、同訴外銀行が右約束手形を右満期の翌日支払のため右支払場所に呈示したところその支払の拒絶せられたこと及び控訴人と被控訴人等との間に昭和三十年三月五日附で被控訴人等が控訴人に対する手形債務の履行を怠つたときは日歩金三十銭の割合による損害金を支払う旨の特約のなされたことは当事者間に争のないところである。

よつて右約束手形の割引の割引の性質について審究せんに、手形割引(手形証券の売買)と手形貸付との間には講学的、経済的に差異を存し、従つてこれに適用せらるる法規も亦相違すべきことは明なるところ、一般取引においては手形割引と手形貸付との間にしかく厳格なる区別をなすことなく往々これを混同し、手形割引と称しながらその実手形貸付を意味する場合も存し、その区別は一に当該当事者の意思の解釈にまつの外なきものと解すべきである。(控訴人所説援用の田中誠二、並木俊守著新版金銭貸借一一三頁、昭和六年一月二十九日大審院判例法律新聞三二三〇号一五頁参照)されば本件約束手形の割引についてもその手形割引なる用語の故に控訴人所説のように直ちに手形貸付にあらずして言葉の意味通りの手形割引(手形証券の売買)となし難く、成立に争のない甲第一乃至第四号証によるも本件約束手形の割引が当然に手形割引(手形証券の売買)なるものとは認め難く、却つて成立に争のない乙第一号証、右甲第二、第三、第四号証の記載自体に辯論の全趣旨を合せ考えると本件約束手形の割引は当該約束手形の売買にあらずして手形貸付であることが認められ控訴人の提出援用にかかる全証拠によるも右認定を覆えすことはできない。

果して然らば被控訴人等は控訴人より本件約束手形金金十五万円より前記認定の割引料(公正証書作成費用金七百五十円を控除し)金二万四千三百五十円を控除した金十二万五千六百五十円を受領したこととなるべく、利息制限法第一条、第二条、第三条により右割引金金二万四千三百五十円の内前記受領額金十二万五千六百五十円に対する右割引の日の翌日たることが前記甲第二号証により認められる昭和三十年三月六日以降右満期の日たる昭和三十年五月八日に至る間同法所定の年一割八分の割合による金額金三千九百六十五円七十二銭を超える部分金二万三百八十四円二十八銭は右元本金十五万円の支払にあてたものと看做すべく従つて元本残額は金十二万九千六百十五円七十二銭となることは計数上明であり、又前記認定にかかる特約による損害金は利息制限法第四条、第一条により年三割六分を超える部分は無効であるので、被控訴人等は控訴人に対し合同して右約束手形金の内金十二万九千六百十五円七十二銭及び連帯して、これに対する前記約束手形呈示の日の翌日である昭和三十年五月十日以降右完済に至るまで前記年三割二分の割合による約定遅延損害金の支払をなすべき義務のあることが明らかであるので控訴人の本訴請求は右の限度において正当としてこれを認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却し、右に符合しない原判決を変更し、民事訴訟法第九十六条、第九十二条但書によつて主文のように判決する。

(裁判長裁判官 小沢三朗 裁判官 県宏 大友要助)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例